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岐阜薬科大学

研究背景

前立腺がんは進行が比較的遅く、10年相対生存率が98.8%を超える予後の良いがんですが、前立腺がんの患者数は増加傾向にあり、2017年のデータでは、日本人男性の約9人に1人が生涯のうちに前立腺がんにかかると推定されています。前立腺がん細胞はテストステロンやジヒドロテストステロンといったアンドロゲンに依存して増殖することから、アンドロゲンシグナルの遮断を目的とし、前立腺を全摘除する手術療法などの外科的去勢や、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(LH-RH)アゴニスト、エストロゲン剤、抗アンドロゲン剤などを用いた薬物的去勢が、治療に用いられています。しかし、アンドロゲン除去療法を開始したほとんどの症例において、半年から数年で耐性を獲得し、去勢抵抗性前立腺がん (castration-resistant prostate cancer; CRPC) へと移行します。近年、CRPCに対する有効な治療薬としてcytochrome P450 17A1阻害剤であるアビラテロン、タキサン系抗悪性腫瘍薬であるカバジタキセル、アンドロゲン受容体 (AR) アンタゴニストであるエンザルタミド、アパルタミド (APA) とダロルタミドが承認され、臨床現場で有用性が示されてきました。これらのCRPC治療薬に対する耐性獲得も報告されており、治療が長期にわたる前立腺がん治療においてCRPC治療薬に対する耐性化を避けることは極めて重要な課題となっています。

プロポリスはがん患者において最も汎用されるサプリメントとして知られ、2005年には厚生労働省研究班によってがん患者の28.8%で摂取されていることが報告されています。プロポリスとはミツバチが作る樹脂性の物質であり、抗酸化、抗腫瘍、抗真菌、抗アレルギー、皮膚保護などの多様な作用が明らかにされています。プロポリスは産地ごとに起源植物が異なることから含有成分が異なり、その中でも、ブラジル産グリーンプロポリスは最も強力な抗腫瘍作用を示すプロポリスの1種として知られ、その活性成分としてアルテピリンC (ArtC)、バッカリン、ドルパニンの3種の桂皮酸誘導体が同定されています。

しかし、ブラジル産グリーンプロポリスによる前立腺がん細胞増殖抑制効果の詳細な機序は完全には分かっておらず、CRPC治療薬に耐性獲得した前立腺がん細胞に対する効果を検証した例はありません。

研究成果の概要

岐阜薬科大学生化学研究室の太田篤実(B6)、河合弥菜(D2)、吉野雄太助教、遠藤智史准教授、五十里彰教授らの研究グループは、アピ株式会社、岐阜薬科大学生体情報学研究室の松永俊之教授、産業医科大学泌尿器科学講座の藤本直浩教授、九州大学大学院医学研究院泌尿器科学分野の塩田真己講師との共同研究により、前立腺がん治療の向上に向けたプロポリス成分の有用性について明らかにしました。

前立腺がんLNCaP細胞を用いて、アンドロゲンシグナルに及ぼす3種の桂皮酸誘導体の影響を検討したところ、ジヒドロテストステロンによって発現亢進した前立腺がん特異抗原 (PSA) の遺伝子発現量はArtCによって用量依存的に減少しました (図1A)。このときにアンドロゲン受容体 (AR) 遺伝子発現量は変動しませんでしたが、ARタンパク質発現量は既存の前立腺がん治療薬フルタミドと同様にArtCによって低下しARの核/細胞質量比も低下しました (図1B-D)。これらの結果からArtCは翻訳後にARタンパク質に作用する可能性が考えられました。また、AR EcoScreenシステムを用いたレポーターアッセイや分子モデリング解析からArtCがARアンタゴニストであることが示唆されました。

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CRPC治療薬に対する耐性化が高頻度で起こることから、CRPC治療薬エンザルタミド、アパルタミドやカバジタキセルに対する耐性株が樹立され、ARの発現亢進が報告されてきました。そこで、新規CRPC治療薬であるAPAに対して感受性が低下したAPA耐性22Rv1 (22Rv1/APA) 細胞を樹立しました (図2)。22Rv1/APA細胞株では、上述のCRPC耐性株と同様にARの発現亢進が認められました。また、合成アンドロゲンR1881によるPSA発現上昇は親細胞である22Rv1と比べて有意に高かったことから、22Rv1/APA細胞株では22Rv1細胞と比べてアンドロゲン感受性が亢進していることが示唆されました。

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次に、22Rv1/APA細胞株におけるArtCの効果を評価しました (図3)。ArtCは22Rv1/APA細胞株におけるPSAとTMPRSS2遺伝子発現をフルタミドと同様に有意に抑制しました。また、R1881によって顕著に上昇したARタンパク質の核/細胞質比についても有意に減少させました。AR核内移行については免疫蛍光染色でも確認できました。R1881で処理した22Rv1/APA細胞株では、R1881によって見られたS期の延長とG0/G1期の短縮がArtCによってキャンセルされたことから、APA耐性株におけるアンドロゲン依存性細胞増殖をArtCが抑制することが示唆されました。また、APAとArtCの併用効果を評価したところ、ArtCが22Rv1/APA細胞株で低下していたAPA感受性をアポトーシス誘導を介して有意に回復させることが明らかとなりました。

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以上、本研究では、ブラジル産グリーンプロポリスに含有される桂皮酸誘導体の中でもアルテピリンCが前立腺がん細胞のアンドロゲンシグナルを抑制することによって、増殖抑制効果や抗がん剤耐性前立腺がん細胞における耐性克服効果を示すことを明らかにしました。

図1-4はArchives of Biochemistry and Biophysicsの論文中のFigureを改変の上転載)

本研究成果は、2023年2月に国際学術誌『Archives of Biochemistry and Biophysics』に掲載されました。

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本研究成果のポイント

  • プロポリス含有桂皮酸の中でアルテピリンCがアンドロゲン受容体に作用して抗アンドロゲン作用を示すことを初めて明らかにしました。
  • アルテピリンCが前立腺がん細胞のアンドロゲン依存性細胞増殖を抑制することを明らかにしました。
  • アルテピリンCはCRPC治療薬アパルタミドに耐性獲得した前立腺がん細胞のアパルタミド感受性を回復させました。
  • アルテピリンCを多く含有するブラジル産グリーンプロポリスのサプリメントを摂取することによって、前立腺がん治療の向上が期待されます。

論文情報

  • 雑誌名:Archives of Biochemistry and Biophysics
  • 論文名:Artepillin C overcomes apalutamide resistance through blocking androgen signaling in prostate cancer cells
  • 著者:Atsumi Ota#, Mina Kawai#, Yudai Kudo, Jin Segawa, Manami Hoshi, Shinya Kawano, Yuta Yoshino, Kenji Ichihara, Masaki Shiota, Naohiro Fujimoto, Toshiyuki Matsunaga, Satoshi Endo, Akira Ikari (# Equal first author contribution)
  • 論文URLhttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36642262/
  • DOI番号:10.1016/j.abb.2023.109519

研究室HP

https://www.gifu-pu.ac.jp/lab/seika/